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廿世紀浴場(廃業)
(Nijisseikiyokujou: closed down)



 日本堤という地名は、江戸幕府が元和6年(1620年)に利根川、荒川の洪水から下谷・浅草の低地帯を守るため築いた堤防の名前に由来している。堤防の長さは聖天町あたりから下谷三の輪町に至る長さ十三町余りと言われていたことから、約1.5qであったと推測されている。堤は二条に造られ、二本堤と書かれたと言われ、これが日本堤になったと考えられているが、日本六十余州の大名が造ったので、日本堤と言ったのだという説もあるらしい。

 さて、さて、今回紹介するのは、台東区日本堤にある銭湯「廿世紀浴場」である。「廿世紀浴場」と書いて「二十世紀浴場」と読む。その名前も十分にユニークであるが、建物の建築様式は名前以上にユニークである。

 廿世紀浴場が造られたのは昭和4年(1929年)。まさに、東京では破風造りの銭湯の建築ラッシュが続いていた頃である。そんな頃に廿世紀浴場のオーナーはどうしてこのような銭湯を造ってしまったのか。他人の真似をしたくなかったのか。誰もがあっと驚くものを造りたかったのか。よほど洋風のものが好きだったのか。

 理由はともかく、20世紀の初頭に、「銭湯とはかくあるべき。」と考えたオーナーが、このような先進的かつ冒険的な銭湯を造った勇気に、惜しみない賞賛の拍手を贈りたいと思う。

 廿世紀浴場は、一見すると到底銭湯とは思えない面構えをしている。入口に暖簾がかかっていなければ絶対に銭湯には見えない。むしろ、昭和初期に、金持ちの文化人達が、社交の場として集まった集会所のようにしか見えないのである。銀座にある社交クラブ「交詢ビル」のような、と書けばちょっと大げさだろうか。

 この廿世紀浴場の建築様式は、建築用語で言えば、「アールデコ」と呼ばれている。アールデコとは、簡単に言えば、直線と円弧をうまく組み合わせた連続模様、幾何学模様を主体とした様式であり、ニューヨークのエンパイアステートビルが代表的なアールデコの作品だと言えば、いかにもわかりやすく、そしていかに廿世紀浴場がすごい建築であるかが容易に想像できるだろう。実際に、東京都内で戦前に建てられたアールデコの建築は、この廿世紀浴場だけなのである。

 廿世紀浴場のすばらしいところはこれだけではない。外壁に使われているタイルがまた珍しい代物なのだ。このタイルは通称「スクラッチタイル」と呼ばれている。文字通り、引っかき傷をわざとたくさんつけてあるタイルのことで、このスクラッチ模様が、外壁に独特の趣を与えているのである。あの有名な大阪のダイビルも同じタイルを使っていると書けば、いかにもわかりやすく、そしていかに廿世紀浴場がすごい建築であるかが容易に想像できるだろう。

 さらに、瓦がまた凄いのである。とても日本的とは思えない、丸みを帯びた瓦は、スパニッシュ瓦と呼ぶらしい。確かに、アールデコに和風の瓦の組み合わせではどうしようもないだろう。

 いやはやこれが銭湯とは恐れ入った。

 さて、前置きがかなり長くなってしまったが、廿世紀浴場のスペックを紹介していこう。

 外観は実にユニークなこの廿世紀浴場であるが、中身は極めて普通の銭湯である。脱衣室にはロッカーが72個、洗面台が1個、ドライヤーが1個(利用料10円)、骨董級のマッサージ椅子が1個(利用料20円)、石鹸類の販売、飲み物類の販売、アイスクリームの販売がある。

 浴室に入る。浴室の洗い場は23箇所。洗い場のカランはレバー式のものがあったり、ボタン式のものがあったりして、どれにしようか迷ってしまう。両方とも相当古いように見えた。洗面器は珍しく白い洗面器である。ケロリンの文字は入っていないが、レア物の白いケロリン桶かもしれない。シャワーブース、サウナはない。

 床のタイルは少々変わっている。八角形のタイルに細かい正方形のタイルが組み合わされている。床に限らず、壁等のタイルはかなり傷んでいるようだ。

 浴槽に入る。この銭湯には珍しく温度計がない。湯温はかなり低いように思えた。とは言うものの、私にとっては丁度良い湯温である。だいたい東京の銭湯の湯温はどこも高すぎるのだ。浴槽は深風呂(気泡風呂)と浅風呂の2槽。

 壁画はどこかの海を描いているようだ。ちなみに女湯の方は富士山である。男湯と女湯の境には、洋風のおしゃれな、かつレトロな照明器具がある。竣工当初からのものだろうと推測されるが、大切に使われているものだ。ガラスが割れてしまったらどうするのだろう。ちゃんと元通りに修理できるのだろうか。

 廿世紀浴場は、大江戸銭湯の中でも、特に名所中の名所ではないかと思う。これからもユニークな銭湯に巡り会えることができるよう祈りながら、廿世紀浴場を後にした。

(番台様、取材へのご協力ありがとうございました。)


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
東京都台東区日本堤1-34-1 400円 × × 15:30〜25:00 月曜日

※ 入浴料はサウナ料金込で表示
※ TVはサウナ内にTVがあるかを表示
取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2004年12月18日(土)



 
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