小山湯(廃業)
(Koyamayu: closed down)



 今日は秋晴れの良い天気で、暑いくらいである。まさに銭湯日和だ。西武・練馬を経由して、都営・大江戸線で麻布十番へ向かう。

 今回紹介する銭湯は港区の小山湯。このあたりには、越の湯竹の湯玉菊湯などの個性の強い銭湯が多いが、小山湯もまたかなり個性が強い。

 麻布十番の交差点を南下し、裏道に入るとそこは狭い路地が入り組んだ住宅街だ。外国人が多いこの一帯にも、このような日本的な町があったのだ。小山湯はそんな路地の突き当たりにある。

 小山湯は煙突と暖簾がなければ古い住宅のように見える。それにしても古い建物だ。中に入って、傘入れの古さにもまた驚かされた。脱衣室に入ると伝統的な番台があり、天井もまた伝統的な折り上げ格子天井である。建具は使用頻度の高い浴室出入口だけがアルミサッシになっているが、他はみな木製のままだ。

 小山湯は、脱衣室も浴室もあまり奥行きがない。その分間口は広く確保されている。狭い土地にぎゅっと押し込まれたように建てられているので、コンパクトながら空間を最大限に活用している。

 さて、浴室は非常にオーソドックス。悪く言えば何の特徴もないが、良く言えば無駄がない。浴槽は深風呂と浅風呂で湯温は42℃。若干熱めである。その浴槽の中には備長炭が入れられているとのことである。

 壁画はどこのものを描いたのかは不明であるが、海と山が描かれている。その下には、古びた広告板が数枚掲げられ、いかにもレトロ銭湯といった感じだ。

 洗い場は良く見ると興味深い。10箇所は鏡とシャワーヘッド付、8箇所は鏡付シャワーヘッドなしの島カラン。残り8箇所が鏡もシャワーヘッドもない島カラン。つまり、好みに応じてどれをどう使おうと自由自在というわけだ。

 番台様によれば、このあたりはかつて小山という地名だったそうだ。それが今は三田という地名に変わってしまった。しかし、この銭湯は昔のままの屋号を貫いている。近所の人はいまだにこのあたりのことを小山と呼ぶらしい。

 その番台様は、昭和37年にここへやってきたという。この銭湯はオーナーが変わっても、屋号と建物はそのまま引き継がれた。詳細は不明らしいが、この建物は大正時代に建てられたものらしい。

 番台様は1冊の書籍を大事そうに差し出してくれた。それは、確か「東京遺産な建物たち」というタイトルで、銀座の歌舞伎座、日本橋の三越など、東京都内にある歴史的な建築物30件ほどを紹介したものだった。建物の選定条件は「ノスタルジックであること」「佇まいが当時のままで今も現役であること」「昭和を生き抜いてきた建物であること」「建物を壊さずに守ってきた人がいること」「私たちが建物のなかで満喫できること」という厳しい条件がつけられている。

 さて、その本の中に銭湯が2軒だけ紹介されており、一つが文京区の月の湯、そしてもうひとつがこの小山湯なのである。

 確かに、東京都内には破風造りの立派な銭湯は多いが、コインランドリーを増設したり、ロビーを増設したり、脱衣室の床を貼り替えたりして、「佇まいが当時のまま」という条件をクリアーできる銭湯は少ない。

 この本によれば、小山湯は「100年はもつ建築物」として建築され、中央にあるヒノキの柱と梁だけで、「住宅1軒が建ってしまうほど贅沢な造り」なのだそうだ。

 これからも小山湯が、平成の時代を駆け抜けて、銭湯ファンを楽しませてくれることを祈りながら、小山湯を後にした。


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
東京都港区三田1-11-2 400円 × × 15:00〜23:00(場合によっては、23:00より早く閉まることもある) 月曜日

※ 入浴料はサウナ料金込で表示
※ TVはサウナ内にTVがあるかを表示
取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2005年11月4日(金)



 
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