鹿の湯
(Shikanoyu)



 鹿の湯の歴史は奈良時代に遡るという。なんと1300年も前に、歴史に登場しているのである。もちろん鹿の湯という名前は、鹿に由来する。伝説によると、629年、狩野三郎行広が、大きな白い鹿を射て傷つけ、それを追跡したところ、茶臼獄の麓の谷あいにある温泉に、傷を負った鹿が浸かっているのを見たという。

 さて、今回紹介するのは、那須七湯の一つである元湯・鹿の湯である。鹿の湯は、観光地である温泉神社、殺生石のすぐ近くにある日帰り温泉施設である。日帰り温泉施設と書けば軽い感じがするかもしれないが、その中身はかなり骨太である。
 駐車場から見ると、鹿の湯は少々複雑な形の建築物となっている。まず玄関を入ると左側にかなり古い下駄箱がある。鍵はすべてなくなっているが、この下駄箱はまだまだ現役である。正面がフロントになっており、ここで湯銭を払う。右側へ進むと有料の休憩部屋が数部屋あり、廊下の突き当りがトイレとなっている。

 浴室はフロントの左側である。ここからが鹿の湯の凄いところである。通路は実は川を渡る橋になっているだ。この橋には洗面台があり、温泉の成分分析票、適応症、禁忌症が書かれた掲示がある。橋の突き当りを右へ行くと男湯、左へ行くと女湯である。
 右へ行くと、浴室を眺めながら脱衣室へ入ることができる。浴室を一目見ると、多くの人が入浴している様子が見える。
 脱衣室には籠が多数置いてあるので、これに脱いだものを入れる。ロッカーは一切ない。脱衣室はかなり狭く、あまり居心地が良いとは言えない。要するに脱衣室には長居はするなということだ。

 浴室に入ると、何か異様な光景である。浴室は細長く、奥行きがある。一番手前には打たせ湯のようなものがあり、湯が落ちる位置に洗面器が置いてある。でも誰もそこにはいない。その先には、細長い浴槽のようなものがあるが、そこにも誰も入っておらず、足を入れてみると火傷をするような熱さである。これもパスせざるを得ない。その先には、2畳ほどの大きさの木製の湯船が3条2列あり、全部で6槽ある。入浴客はなぜか、ほとんどの人が一番奥の湯船の廻りに集まっており、湯船に浸かっている人は少なく、皆湯船の廻りに座っている。
 これは一体どういうことか。一番奥にはどうも近づきがたい雰囲気である。どうしようか迷っていると、近くに座っていた人が教えてくれた。この6つの浴槽は皆湯温が異なるのだ。手前から、41℃、42℃、43℃、44℃、46℃、48℃となっている。各浴槽の近くの壁面に、湯温を表示する札が掲げられているではないか。しかし、札はかなり古びているので、文字はよーく見ないと読めない。そして、人が集まっているのは、一番奥の46℃と48℃の湯船の廻りなのだ。それを知った私は、「奥は私には関係ない。私は手前の41℃の湯船だけで十分だ。」と思って、早速その湯船に入ってくつろいだ。
 湯は乳白色であり、ぬる湯が好きな私には快適な湯温である。ちなみに、この鹿の湯には洗い場は一切ない。もちろん、シャワーブース、サウナ、水風呂、そういった類のものは一切ないのだ。ただひたすらこの乳白色の湯船に浸かる。それがここの流儀である。
 そうこうしていると、管理人が各湯船の湯温を測定しにやってきた。彼はこう説明する。「ぬるい湯船からだんだん熱い湯船へ入っていく人が多いですが、途中でぶっ倒れる人もいます。無理しないでくださいよ。」と。熱い湯船の周りに集まっている人のいくばくかは、やせ我慢の客に違いないのである。
 そして、しばらくすると、私と同じような鹿の湯初心者のおじさんが入ってきた。管理人の説明を聞いたその客はまず41℃の湯船に入ってきた。そして管理人に言う。「私が倒れたら助けてくださいよ。」と。まさに命がけの湯治である。

 ところで、この鹿の湯の建物は大変古い。浴室は腰壁までは石による組積造であるが、それより上部の壁と小屋組は木造となっている。天井は蒸気が抜けやすいように、細長い連続した排気塔になっている。
 館内と浴室の写真撮影をしたいところであったが、たくさんの客が入浴しており、他の客の迷惑になる可能性が高かったので、ここに掲げる写真以外はとても撮影できる状況ではなかった。あしからずご了承願いたい。

 鹿の湯へ行くなら、朝早くをお勧めする。休日の午後は、アプローチの県道が異常に渋滞するので避けた方が良いだろう。
 ちなみに、鹿の湯の適応症は、書き上げればきりがないが、主なものは以下の通りである。疲労回復、健康増進、胃腸病、婦人病、皮膚病、神経病、糖尿病、関節病。


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
栃木県那須郡那須町湯本181 大人400円、小人300円、未就学児無料 × × 8:00〜19:00(季節により変わる可能性あり、要確認) 無休

※ 入浴料はサウナ料金込で表示
※ TVはサウナ内にTVがあるかを表示
取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2005年7月17日(日)



 
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