駅前温泉浴場
(Ekimae Onsen Yokujou)



 今回紹介する温泉は、熱海駅に最も近い場所にある日帰り温泉施設だ。熱海駅から徒歩約1〜2分。商店街の裏手の通りに「熱海駅前振興会館」という古いビルがある。その1階にこの駅前温泉浴場はある。
 中に入ると温泉の券売機があるが、故障中との表示がある。呆然とその券売機を眺めていると、背後から「入浴ですか」という声が聞こえてきた。振り向くとそこに小さなフロントがあった。
 券売機の奥へ進むと、そこは小さなロビーだ。ソファー、テーブル等が置かれている。ここは日帰り温泉というよりは、古い銭湯のようにしか見えない。恐らく30年以上昔からこのままなの姿なのだろう。
 脱衣室に入ると、木製のブースが見える。良く見るとそれは1人用のサウナだ。しかし、それもまた故障中との表示がある。券売機にしろ、サウナにしろ、故障中のものであっても、それを修理しようという気配は全く感じられない。故障中との表示が色あせるほど古びているからだ。
 浴室も古い。壁、床は様々な種類のタイルが使われており、修理を積み重ねてきたことが想像される。給水、給等用の配管はすべて露出だ。カランは13箇所あるが、間隔が狭いので、混雑すると結構窮屈だろうと思う。シャワーヘッドはこのうちの3箇所にしか設置されていない。
 湯船は4人も入れば満員だろうと思われるよう小さなものだ。しかも湯温は高い。44℃はあるだろう。湯船に浸かって天井を見上げれば、青い色に塗装された吹き付けの仕上げが見える。こちらも10年以上塗り替えていないのだろうか、かなり汚れている。
 考えてみれば、15年ほど前、始めて会社の山岳部の山行に参加して、天城山を登り、帰りに熱海駅前の温泉に入った記憶がある。私の記憶では、商店街の中に温泉があったように思うのだが、先ほどのフロント様によれば、昔から駅前にはこの温泉しかないという。
 ということは、私は15年前にこの温泉に入っていることになる。15年前の自分を思い浮かべていると、さらに自分はタイムスリップしていく。30年前、いや40年前の熱海へと。
 そう言えば、熱海はかつて新婚旅行の一般的な目的地だったということを聞いたことがある。当時の華やかな温泉街が想像される。しかし、最近の熱海はさびれてきているようにしか思えない。交通の便が良くなり、熱海はもはやゴージャスな温泉旅行の目的地ではなくなった。東京都内に限らず各地にたくさんの温浴施設、スーパー銭湯が建設され、気軽に温泉を楽しめるようになってしまった。
 街を一望できる場所に立つと容易にわかるが、熱海は温泉ホテルよりもマンションの方が多くなってしまったように思える。確かに、新幹線を使えば、十分に東京は通勤圏内だ。熱海は一体どこへ向かうのだろうか。
 駅前温泉浴場は、そのような時代の変化を敏感に感じ取ってはいない。むしろ、頑固に昔のままの姿である。
 ちなみに、駅前温泉浴場は、ナトリウム・カルシウム−塩化物温泉(低張性・中性・高温泉)で、神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、間接のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進に効くという。


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
静岡県熱海市田原本町8-16 500円 × × 10:00〜22:00 水曜日

※ 入浴料はサウナ料金込で表示
※ TVはサウナ内にTVがあるかを表示
取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2008年6月



 
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