富士見湯
(Fujimiyu)



 川崎市の銭湯へはじめてやってきた。今回紹介するのは、JR川崎駅から徒歩10分ほどのところにある富士見湯だ。
 JR川崎駅の西側は、近年大きな変貌を遂げた。東芝の工場、JRの変電所、市営住宅、公団住宅等がなくなり、「ラゾーナ」という名の商業施設、「ミューザ」という名の劇場とオフィスビルが出現し、タワーマンションまでもが立ち並ぶ。
 一方、ラゾーナの北側にある通称「ニコニコ通り」商店街は、そんな開発ラッシュとは無縁の世界のようである。そこにあるのは昔ながらの肉屋や八百屋だ。そして私の目の前に姿を現した富士見湯は、まるでこの商店街のステータスシンボルのように、大きな千鳥破風と、煙突を堂々と見せつけてくれている。
 女将さんと3代目だというご主人によれば、富士見湯の創業は、この辺りが一面焼け野ヶ原であった昭和22年。そのような時代にあって、多額の建設資金をよく手当てできたものだ。それだけ銭湯業が時代の花形であった証拠であろう。3代目のご主人はまだ30代であると思われるが、既に4代目も決まっているという。富士見湯はしばらく安泰のようである。
 さて、富士見湯の内部を紹介しよう。脱衣室は重厚な折り上げ格天井。もちろん番台は健在だ。この番台、かなりの高さがあり、曲線を活かした遊び心満載の袖部分も残っている。
 浴室はシンプルそのものだ。洗い場は22箇所でシャワーブースが1箇所。洗い場のうち1箇所は、高齢者用になっている。介護風呂椅子が置かれ、その高さにあった位置にサーモスタット式シングルレバー混合栓がある。もちろん手摺も完備されている。
 浴槽は3つ。深風呂と浅風呂(マッサージ風呂、電気風呂)、薬湯だ。深風呂と浅風呂は湯温表示44℃。やや熱めの設定だ。電気風呂はL字型に電極が設置されており、パルスの強さを試しながら、じわじわと電極に接近することができる。両電極の高さは若干異なっているので、低い方は腰用、高い方は肩用として使用することも可能であろう。
 薬湯は「天然鉱物エキス カルシウム第12種 厚生省認可 神薬 第1438」と書かれた怪しげな乳白色の湯だ。神経痛、凍傷、あせも、リウマチに効くという。湯温は41℃程度でかなりぬるめ。これなら長湯ができる。
 私のお気に入りはこの薬湯と電気風呂だ。薬湯でゆっくりとリラックスし、のぼせてきたところで、電気風呂の適度な刺激を浴びる。最近肩が凝っていたので、快適そのものであった。
 私の今の勤務先は、川崎駅前の高層ビルにあるのだが、こんな近くに、こんな素晴らしい銭湯があったとは驚きである。もっと早く気づくべきであった。
 そのオフィスからは富士山がよく見えるのだが、高層ビルがなかったであろう昭和20年代は、富士見湯からも富士山が見えたのだろうか。
 川崎駅前には、他にもたくさんの銭湯があるようだ。特に駅の東側一帯は、銭湯の過密地帯である。川崎は高度成長の時代から工場の街であったから、たくさんの銭湯があるのも頷ける。これから機会を見て紹介していくつもりだ。
 富士見湯は、発展し続ける川崎駅西側とは無縁の、昭和の趣を残した一角にあった。10分でできるタイムスリップ。それは心地よい風呂上りをもたらしてくれた。

大人(12歳以上)450円、中人(6歳以上12歳未満)180円、小人(6歳未満)80円


住所 入浴料 サウナ TV 営業時間 定休日
神奈川県川崎市幸区幸町4-2-3 450円 × × 15:00〜23:40 毎月7日、17日、27日(日曜日、祝日の場合は翌日休み)

※ 入浴料はサウナ料金込で表示
※ TVはサウナ内にTVがあるかを表示
取材:銭湯愛好会東京支部
取材日:2010年6月18日(金)



 
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